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トンネル出口で止められた警告

深夜のドライブは私の小さな逃避だった。特に湾岸道路は静けさと広がる夜景のコントラストが心を落ち着けてくれる。あの夜も仕事帰りの疲れた体を癒すように一人で車を走らせていた。

午前2時過ぎ、車内にはラジオの音だけが静かに流れている。周囲に車はなくライトが照らすアスファルトだけが視界に広がる。やがて前方にトンネルが見えてきた。湾岸道路特有の無機質なコンクリート壁。昼間は何とも思わないその景色も深夜にはどこか冷たく感じる。

トンネルに差し掛かり、出口の光が見えた瞬間だった。突然、「ピピピピピ!」と車内に警告音が鳴り響いた。

「衝突回避システム作動」
車が勝手にブレーキをかけ始めた。驚きながら前方を凝視したが道は何も遮られていない。ディスプレイには「前方に障害物があります」との表示が出ている。だが、ライトの先には何もない。ただ出口の光がぼんやりと揺らめいて見えるだけだ。

「……何だ?」
高速道路での停止は危険だと思い私はアクセルを踏み続けた。ブレーキの抵抗を感じながらも車は再び動き始め出口を抜けた瞬間に警告音は止んだ。すぐに通常通りの運転に戻ったが心の中には釈然としない違和感が残った。

翌日になってもその奇妙な体験について考え続けていたが、生活の忙しさに追われるうちに次第に記憶は薄れていった。仕事や日常の雑事に埋もれ、あの夜の出来事は私の中でどこか曖昧なものとなった。

 

 

数か月後、休日の午後。何とはなしにコーヒーを片手にネットを見ていた私はふとあの夜のことを思い出した。あの警告音、トンネル出口での不気味なブレーキ――あれは一体何だったのか。軽い気持ちで検索欄に「湾岸道路 トンネル出口 事故」と入力してみた。

結果一覧に目を通していると心臓が跳ねるような見出しが目に飛び込んできた。
「湾岸道路トンネル出口、未明の単独事故で運転手死亡」

その記事の日付は私があの夜に通った日と一致していた。震える手で記事を読み進めると内容はこうだった。深夜2時半過ぎ、湾岸道路のトンネル出口付近で乗用車が壁に衝突し、大破。運転手の男性は即死だった。目撃者はおらず、原因は不明とされている。

「原因不明の事故……」
その言葉が頭の中で何度も反響した。さらに記事には、警察の調査結果も記載されていた。車には機械的な不具合はなく、運転手が急にハンドルを切った形跡があるという。なぜその操作をしたのかは、結局分からなかったと結ばれていた。

私がその場所を通ったのは事故の発生直前だったのだろうか。それとも――あの警告音は、何かを予知していたのだろうか。心臓の鼓動が速くなるのを感じながら私は画面を閉じた。背中を冷たい汗が伝う。

あれ以来、私は湾岸道路には近づいていない。高速道路の静けさを愛していた私だがあの夜の出来事は今も心の奥底に根を下ろしている。そして時折思うのだ。あの夜、私がブレーキに従っていたら、何が起きていたのだろう――。