子供の頃「息をし続ければ死なない」と本気で信じていた。どんなに苦しくても呼吸さえ続ければ大丈夫だと思っていた。それが生きるということの全てのような気がしていた。でも大人になって病気を経験したり、死に近い瞬間を感じたりするとその単純な信念はいつの間にか消えていた。
何度か入院をしたことがある。最近では流行病にも2回罹った。どちらも苦しくて「もうダメかも」と思う瞬間があった。そのとき初めて「人間ってこんなにも簡単に死ぬんだ」と思った。呼吸が続いていても体が限界を迎えたらそれで終わりなのだと嫌でも気づかされた。
心もそうだ。体調だけじゃなく心が少しおかしくなったときがあった。あの時は、本当に「これで終わりだ」と感じた。呼吸どころか全てが止まってしまいそうだった。今になって思えば、「自分ってこんなに弱かったんだ」と知れたのはいい経験だったのかもしれない。でも、それはあくまで「今だから」そう思える話で、渦中にいるときはそんな余裕は全くなかった。
眠れない夜、こういうことをつい考える。今の自分はどうだろうか?次にまた何か起きたらどうなるだろうか?――そんなことをぼんやりと思いながら過ごす夜がある。でも同時に思うのは「あのとき乗り越えられたんだから、きっとまた何とかなる」ということだ。少なくとも今ここでこうして考えられる自分がいるのだから。
人によっては同じ経験をしても乗り越えられないこともあるだろう。だから、自分の経験を「良かった」と簡単にまとめるのも違う気がする。それでも、眠れない夜に浮かぶ思い出を抱えながら、今を生きるヒントを少しずつ見つけていくしかないのかもしれない。