「103万円の壁」という言葉が再び話題になっている。SNS上では「178万円になれば手取りが大幅に増える!」と期待する声が上がる一方で「税率や社会保険料の影響を忘れている」と警鐘を鳴らす声もある。しかしそうした正確な情報を共有しようとする人たちが逆に攻撃される場面を見ると、議論の根底に「税や社会保険の知識不足」があるのではないかと感じる。
改めて考えてみると、私たちはなぜ税金や社会保険について正確に学ぶ機会が少ないのだろうか。義務教育では納税が国民の三大義務の一つであることを習う。でもそれは上辺だけの知識で具体的な計算や仕組み、そして自分たちの生活にどう影響するかまでは教わらない。結局「基本の基本」だけを覚えただけで実生活に直結した感覚を持たないまま社会に放り出されてしまうのだ。
一方、大学は今や「就職予備校」の立ち位置を強めている。国民の三大義務のうち「勤労」のための準備を整えるという役割に応えているとも言えるだろう。しかし「勤労」の結果として避けて通れない「納税」については大学でもほとんど教えられることがない。むしろ社会に出てから「知らなかった」「もっと早く知っていれば」と感じる人がほとんどではないだろうか。
103万円の壁や178万円の壁の議論は、単に「壁」が変わるというだけの話ではない。その変化が生活にどう影響するのかを考えるには、基本的な税や社会保険の知識が必要だ。しかし、それを知らないままでは、制度の恩恵も十分に享受できず、SNS上での誤解や感情的な議論に振り回されることになる。
これからの教育に必要なのは「納税」を生活の中で実感できる形で教えることだ。社会保険料の仕組みや所得税の控除、年金制度の基礎など実際の生活に直結するテーマを取り入れることで若い世代が自分で判断し、行動できる力を持つようになるだろう。
国民の三大義務の一つである「納税」。その重要性を真に理解する機会を設けることは、教育の責任でもある。大学が「勤労」に特化するのなら、義務教育が「納税」の基礎をより深く教える役割を果たしてほしい。そして、税金の話題がただの壁の話ではなく自分の生活を考える出発点になる社会でありたい。