レイトショーで映画を観終わって少しひんやりとした夜風に吹かれながら駐車場へと続く道を歩いていた時。 ふと、小さな長靴が片方だけポツンと置かれているのに気づいた。誰かが落としていったのだろう。いや落ちていたというよりは道の真ん中ではなく、ちゃんと端っこに誰かが寄せてあげたようなそんな佇まいだった。
それを見た瞬間から頭の中では勝手に色々な想像がまるでシャボン玉みたいに次々と膨らみ始めた。 靴のサイズからして、持ち主はたぶん5歳くらいの子供だろうか。色は鮮やかなブルー。まあ色だけで決めつけるのは良くないんだろうけど、なんとなく活発な男の子の姿が目に浮かぶ。
きっと映画館かあるいはショッピングの帰り道だったんだろうな。お母さんと手を繋いで、楽しかったことを一生懸命話しながら駐車場に向かう途中、何かの拍子に長靴がスポッと脱げちゃったのかもしれない。子供も親もその瞬間には気づかないまま車に乗り込み、家路につく。
そして家に着いて、玄関であれ? 靴が片方ないじゃない!ってなる。もしかしたら雨上がりで濡れていた廊下に残った片足だけの小さな足跡を見て、お母さんが「もしかして…」って気づいたのかもしれない。
「どこで脱げたか分かる?」ってお母さんに聞かれてもその子はきっと「わかんなーい」って首をかしげるだろうし。お母さんも慌てて車から玄関までの短い間を探してみるけど、結局見つからない…。そうして残された片方の長靴はたった一人の相棒を失って、新しいものを買ってもらうまでの間、寂しく下駄箱の隅に置かれやがては捨てられてしまうんだろうな、なんて。
なんてことのない、ありふれた想像だとは思う。でももし本当にそうだったとしたら、長靴が脱げた後、もしかしたら冷たいアスファルトの上を片足だけ靴下か何かでペタペタと歩いたかもしれないその子のことを思うとなんだか健気で胸の奥がキュッとなる。お母さんもどうかその子をあまり怒ったりしないで優しく「今度は気をつけようね」って言ってあげてほしいな…なんて、勝手にお祈りモード。もちろん想像とは全然違う、もっとあっけらかんとした理由でそこに長靴があるのかもしれない。
ただ事実の一つはその小さな長靴が道の真ん中じゃなくてちゃんと端にちょこんと寄せられていたこと。きっと先に通りかかった誰かが車に轢かれたり、他の誰かがつまずいたりしないようにそっと拾って移動させてあげたんだろう。そういう名も知らぬ誰かの小さな優しさに触れるとちょっとだけ心が温かくなる。
そんな金曜の夜に見つけた小さな青い長靴と、それにまつわる勝手な想像。 まあ、ただそれだけの話。