最近仕事のメールを打つときや頭の中のぐちゃぐちゃした考えをまとめる時に呼吸をするように生成AIを噛ませるようになった。「取引先に角が立たないように断りの連絡を入れたい」とか「この企画書の骨子をもっともらしく整えて」とかそういう雑な要望を投げると瞬時に完璧で礼儀正しい文章を吐き出してくれる。僕はそれをコピーして貼り付けて送信ボタンを押すだけ。
非常に効率的で楽だ。でもふとキーボードを叩きながら奇妙な既視感に襲われた。「あれ?これってポケモンバトルじゃね?」と。
もちろんここで言う「トレーナー(指示を出す側)」は僕じゃない。画面の向こうにいるAIだ。 そしてその指示を受けて言われた通りの技(文章)を繰り出し相手に向かってアクションを起こしている僕こそがモンスターボールから飛び出した「ポケモン」。
「ここは『お詫び』だ!効果は抜群だぞ!」とAIに指示され僕は思考停止で「大変申し訳ございません」という技を繰り出す。「次は『提案』で様子を見よう」と言われれば、その通りのメールを送る。そこに僕の意志はあるようで実はどこにもない。僕はただ、優秀なトレーナー(AI)の戦略を物理世界で実行するための肉体労働担当に過ぎないんじゃないか。
そう考えると自分が「コミュニケーションをとっている」と思っていた行為が急に薄っぺらで空虚なものに見えてくる。画面上の文字は僕の人格や感情をトレースしているようでいてその実統計的に「正解」とされる単語の羅列でしかない。そこに「自分」はいない気がする。
そしてもっと恐ろしい想像をしてしまう。 もしメールを送った相手も同じように生成AIを噛ませて返信してきていたとしたら? AIが考えた文章を僕が送りそれを読んだ相手側のAIが返信を考えそれを相手が送り返してくる。これ人間いらなくないか? やっていることはただのAI同士の代理戦争だ。人間はAIという頭脳が決めたことを伝達するためだけのただの通信ケーブルかあるいはバイオロジカルな端末に成り下がっている。
自分の頭で悩み言葉を選び恥をかいたり失敗したりしながら相手と向き合う。 そういう面倒くさいけど人間味のあるプロセスを全部AIに丸投げしてただ指示されて動くだけの存在になること。それはもう楽をしているというよりは「人間という仕事」を完全に放棄しているのと同じことなのかもしれない。
そして今日もAIに指示された通りのメールを送信する。今の僕はサトシじゃなくて電気袋を帯電させている黄色いネズミの方なんだ。 そんなアイデンティティの崩壊を感じた。