お正月の特番で『クイズ$ミリオネア』がやっていたらしい。その話を聞いて真っ先に頭に浮かんだのはあのお馴染みの演出。挑戦者がドロップアウトを選んだ時あるいは間違えた時に司会者が目の前で小切手をビリビリに破り捨てるあのシーン。
1000万円という富の象徴が一瞬にしてただの燃えるゴミに変わる絶望感を視覚的に訴える名演出だがふと冷静になって思う。
小切手ってもう廃止されるんじゃなかったっけ?と。
その通りで政府と銀行界の方針2026年度末を目処に紙の約束手形や小切手は全面的に電子化され事実上の廃止となる流れが決まっている。まさに今年がその過渡期のラストイヤー。もし番組でまだあの演出をやっていたとしたらそれはもう現代劇ではなく一種のファンタジーか時代劇を見ていることになる。実社会では使えない過去の遺物となった紙切れを勿体ぶって破いているわけだ。
もし完全に廃止された後もあの演出を続けるならフロッピーディスクのアイコンが保存の意味として残っているのと同じように小切手を知らない世代にとってはクイズ番組で破られるための専用の紙として認識される未来が来るかもしれない。それはそれで面白い。
しかしここからが少し怖い話。気になって詳しく調べてみるとさらに奇妙な事実に突き当たった。どうやら2026年度末で廃止されるのはあくまで銀行が手形や小切手の交換業務をやめるという実務上の話であって法律(小切手法)そのものが消滅するわけではないらしい。つまり法的にはまだ小切手という有価証券は有効に存在し続ける。
これ冷静に考えると完全に廃止されるよりも余計にタチが悪いんじゃないか? 法律上は現金の代わりに使える有効な証券として定義されているのにそれを銀行に持っていっても「うちはもう取り扱ってないんで」と門前払いを食らうことになる。
「有効だけど、換金できない」 そんな矛盾した存在もはやバグ。流通するインフラが死んでいるのに法律という魂だけが現世に残っている。まさにゾンビ小切手。
このねじれが悪用されるリスクは容易に想像できる。事情に詳しくない人を相手に法律上有効な小切手だからと言いくるめて支払いに使い受け取った側が銀行で換金できずに途方に暮れる……なんていうトラブルが起きかねない。
そう考えると、破り捨てるあの小切手は単なる小道具以上にこの国の行政と経済界のちぐはぐさを象徴する高度な風刺アイテムに見えてくる。
制度を変えるなら法律ごと綺麗さっぱり無くしてくれればいいのになぜか中途半端に枠だけ残す。この責任の所在が曖昧な感じがいかにも日本的でなんだか小切手が破られる音以上に寒々しいものを感じてしまった。
やはりあの演出は破り捨てて正解なのかもしれない。