久しぶりに映画『ファイト・クラブ』を観た。
この映画は不思議だ。観るたびに味が変わるしこちらの年齢や置かれている状況によって全く違う顔を見せてくる。今の自分の波長に驚くほど合っていた。
今回、一番ハッとさせられたのはブラッド・ピット演じるタイラー・ダーデン率いる組織のある種グロテスクな矛盾。彼らは「反物質主義」「反資本主義」を叫びIKEAの家具に囲まれた生活を否定しクレジットカード会社を爆破しようとする。けれどその実働部隊である「プロジェクト・メイヘム」の拡大の仕方はどうだ。各地に支部を作り画一的なルールで構成員を管理し効率的に目的を遂行していくその様は皮肉にも彼らが最も憎んでいたはずの「フランチャイズ・チェーン」や「多国籍企業」の増殖プロセスそのものだ。否定していたはずのシステムに結局は自分たちも収束していく。「お前は財布の中身じゃない」と言いながら彼らもまた巨大な機構の歯車になっていく。単なるアナーキーな暴動映画ではなくそこから逃れられない人間の業を描いた作品として妙に腑に落ちた。
公開された1999年という時代も重要だ。冷戦が終わりまだ9.11の前で世界は退屈なほどの平和と消費に浸っていた。大恐慌もなく「生きる意味」が見つからないことが最大の悩みだった時代。
対して2026年の今はどうだ。世界にはきな臭い戦争の気配が漂い僕たちはリーマンショックやコロナショックという実質的な危機を経験し経済的な不安の中にいる。状況は真逆と言ってもいい。けれどそれでもこの映画が古びないのは環境が変わっても「本質的な自分」が変わっていないからだろう。いやむしろ今の閉塞感の中でこそあの破壊衝動はリアリティを持って迫ってくる。
もしかすると自分の中にもタイラー・ダーデンは住んでいるのかもしれない。若い頃のようなただ暴れたいだけの衝動的なタイラーではない。世の中の仕組みを知り資本主義の矛盾を理解しそれでもなお消えない不満を抱えた「熟成されたタイラー」だ。 そいつは年々静かにしかし確実に育っている。
「違うように見えるけど、何も変わっちゃいないぜ」と脳内で囁く声が聞こえるようだ。この映画は今の自分を映し出す鏡だ。先日作った24本の映画リストにこの作品がどう位置づけられるのか。
崩れ落ちるビル群を眺めながら自分の中の怪物がニヤリと笑う。