ふと気になってiPhoneの設定画面を開きバッテリーの状態を確認してみた。
表示された数字は「84%」。なんとも絶妙な数字だ。メーカーが交換を推奨する80%ラインの一歩手前。人間で言えば定年はまだ先だけど徹夜はもう無理になってきた中堅社員といったところか。
しかし生活実感として困っているかと言えば答えはNO。ゲームをゴリゴリ回すわけでもないし一日外出していてもモバイルバッテリーが必要になるほどの緊急事態には陥らない。2023年に発売されたこのiPhone15は端子がUSB-Cになった記念碑的なモデルだ。 ケーブルの汎用性は高いしスペック的にも2026年の現在で日常使いするには何一つ不満はない。「まだ舞える」と端末自身が訴えている気がする。
一方で脳内の「賢い消費者」担当の自分が囁く。「今が売り時だぞ」と。84%ならまだ中古市場でそれなりの値段がつく。今のうちに高く売却しその資金を元手に最新機種に乗り換える。メモリ価格の高騰や円安で次期モデルはさらに値上がりするかもしれない。資産価値が残っているうちに回転させていくのが経済的で効率的な生き方なのは間違いない。車だってスマホだって下取り価格が高いうちに乗り換えるのが「正解」だと世間のライフハック記事は声高に叫んでいる。
けれどその正論をたった一言で粉砕する感情がある。
「めんどくさい」。これに尽きる。
新しい端末を買う手間データを移行する待ち時間銀行アプリやLINEの再認証配置が変わってしまったアイコンを並べ直すストレス。それらセットアップの労力を時給換算したら下取りで得する数万円なんて簡単に消し飛ぶんじゃないかと思う。それにまだ動くものを手放すという行為にどこか生理的な抵抗もある。
結局のところ効率的に立ち回るよりも今の環境をダラダラと維持する方が精神的なコストパフォーマンスは高い。壊れるまで使う。画面が割れるか充電ケーブルを挿しても反応しなくなるその日までこいつと付き合う。それが消費サイクルを早めようとする巨大企業へのささやかな抵抗であり僕なりの愛着の示し方なのかもしれない。
「84%もあるならあと2年は戦える」 そう自分に言い聞かせて設定画面を閉じた。
最新の機能よりも慣れ親しんだ手触りを優先。
そんな保守的な選択をした。