一週間前、僕は左手の親指を思い切り強打した。
その衝撃の証拠として指先にはぷっくりとした血豆が誕生した。どう処置すべきかインターネットの海を彷徨ってみれば「血豆は天然の絆創膏だから潰すな」という教えに行き着く。その禁忌を律儀に守り抜き一週間が経過した。
かつて鮮やかだった赤黒い膨らみは今やホクロのように真っ黒に変色し指先に鎮座している。痛みはもうない。けれど視界に入るたびにその黒が妙に引っかかる。
ネットの知識によればいずれ人体がこの血の塊を自然に吸収し元通りになるという。果たして本当なのだろうか。確かに昨日よりはほんのわずか色が薄くなっている……気がしないでもない。
ただこの牛歩のような回復ペースでは指先に黒い刻印を残したまま一か月は過ごすことになりそうだ。いっそ最初の一撃で潰して血を抜いてしまったほうが精神衛生上はスッキリしたのではないか。そんな後悔が頭をよぎることもある。
だがここまできたら人体がどうやってこの異物を処理するのかというプロセスに最後まで立ち会ってみたいという妙な執着も湧いてきた。
吸収されるのかあるいは皮膚の代謝とともに表面へ押し出され剥がれ落ちるのか。親指を舞台にした地味で静かな生存競争。その結末がどうなるのか最後までこの黒い同居人を観察し続けることに決めた。
一か月後の指先が何事もなかったかのように滑らかになっていることを信じて今日も親指の黒い点を少しだけ愛着を持って見つめている。