不意に、右手に持っていたスマートフォンを足の上に落とした。
直撃したのは右足の人差し指と中指。落とした直後は「あ、やったな」程度の軽い衝撃で痛みもそれほどではなかった。しかし本当の悲劇は翌日になってから静かに幕を開けた。
朝起きると指が赤くぷっくりと腫れ上がっている。さらに冬の厳しい寒さが追い打ちをかけるように猛烈な「痒み」を連れてきた。打ち身の腫れと冷えが混ざり合った結果なのかかいてもかき足りないほどの不快感が指先を支配している。気になりだすともう眠れない。指を動かせば打ち身の痛みが走りじっとしていれば痒みの波が押し寄せてくる。骨が折れていないことだけが救いだがあの金属とガラスの塊がこれほどまでに凶器になるとは油断していた。
ふと暗闇の中で考えた。今の僕の足とこの手の中にある最新のスマートフォンどちらに高い価値があるのだろう。修理代や買い替え費用を考えれば金銭的な価値はスマホのほうに軍配が上がるかもしれない。だとすれば右足は地面という無慈悲な硬質物から高価な精密機器を守るための肉のクッションとして機能したことになる。足がスマホを守ってくれたんだ。結果的に良かったじゃないかそう自分に言い聞かせてみるがズキズキと疼く指先がその安易な自己正当化を許してはくれない。
今度からはもっとスマホの重みを意識して生きようと誓った。手のひらサイズの宇宙は一歩間違えれば持ち主の安眠を奪う物理的な重力へと変貌するのだから。 腫れ上がった二本の指をさすりながらスマホの無傷な画面を少しだけ恨めしく見つめた。