「じゅういち」と「じゅうしち」。
そのわずか数音の違いが1日のタイムラインを無慈悲に引き裂いた。
午前11時という活動のピークに向けて整えていた心づもりは夕刻17時という本来なら業務の幕を引くはずの時刻へと強制的にスライドさせられた。ダブルブッキングという最悪の事態こそ免れたものの待っていたのは定時後の静寂を侵食する17時以降の予定というなんとも後味の悪い現実だった。
悔しさは喉の奥に苦く残る。だがこれも自らの聴覚という名のインターフェースが引き起こした抗いがたいシステムエラーなのだろう。
そんな時間のズレに振り回された1日にさらに追い打ちをかけるようにもうひとつの真実が姿を現した。確定申告という名の祭典が終わった直後書類の束の隙間。そんな場所からひょっこりと顔を出したのは1万円分のふるさと納税の証明書だった。
この瞬間私が本来受け取るはずだった控除は消え去り、手元に残ったのは3倍の価格で特産品を買ったというあまりにも生々しい事実だけである。
損をしたのではない。
1万円という対価を払い整理整頓の重要性という重厚な授業を受けたのだ。
そう言い聞かせでもしなければこの胸のざわつきは到底おさまらない。
それでもまだ1万円で済んでよかった。
もしこれがもっと高額な寄付だったなら今日のダメージはこんなものでは済まなかったはずだ。不運のなかにある最小限の幸運を拾い上げながらこの感情を来年の確定申告へ向けた強烈なモチベーションへと変換する。
来年は完璧にやる。
その誓いだけがこのどうにもままならない1日をかろうじて前向きなものに変えてくれる。
聞き間違いによる業務時間の延長。
書類の見落としによる経済的な誤算。
このダブルのアクシデントを新年度最初の手痛いデバッグとして受け入れるしかない。夜の予定を淡々とこなし明日からはまた、1分1秒そして1枚の書類の重みをこれまで以上に繊細に感じ取りながら新しい1年を刻んでいく。