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視線の高さ【26/4/24】

妻の身長は数値として見れば決して高くはない。

けれど日常的にヒールを履きこなす彼女はその物理的な差を軽やかに無効化してくる。 並んで歩くとき言葉を交わすときふとした瞬間に視線が揃う。時にはわずかに見上げる形にすらなる。その数センチの逆転が妙に心地いい。対等というよりむしろ自然な位置関係に収まる感覚。理由は説明できないが確かにそこに会話のしやすさがある。

 

そんな平穏な日常の裏側で身体は静かに限界へと近づいていた。

筋肉は硬直し可動域は削られ内側には疲労が沈殿していく。いわば動き続けたシステムに蓄積したログのようなものだ。それを一度リセットしたくなり揉みほぐしという選択肢を取った。リンパの流れだとか老廃物の排出だとかそういった言葉を半ば信じ半ば疑いながらも物理的な刺激で身体を立て直そうとした。

 

だが結論は想像と少し違う場所にあった。

施術の途中で抗えない眠気に飲み込まれた。思考が途切れ意識が沈み気づけば深い眠りの底にいた。施術が効いたのかどうかは正直わからない。老廃物が流れたのかリンパが活性化したのかそのあたりは曖昧なまま。ただ一つだけはっきりした事実がある。

 

目覚めた瞬間に感じたのは足りていなかったのはこれだという確信。

マッサージでもデトックスでもない。ただの純粋な睡眠。

身体が本当に求めていたのは外部からの介入ではなく内部の完全停止だった。無理にメンテナンスを施すよりも一度電源を落とす方が優先されるべき状態。

シムシティで言えばインフラ整備の前にゲーム自体を再起動するようなもの。

 

遠回りではあったが答えには辿り着いた。

何をすべきかではなく何を削るべきかを知るためのプロセス。それもまた自分というシステムを扱う上で避けられないデバッグの一部なのだと思う。