冬になるとチョコレート売り場には「冬季限定」の文字が踊る。濃厚な味わいや贅沢なパッケージが目を引き「この季節だけ」という言葉に心を揺さぶられる。「冬限定の特別な味」その響きだけで何だか得をした気分になるから不思議だ。
でも、冬だけの特別感に酔いしれているとふと気づくことがある。通年販売のチョコレートがそこに静かに並んでいることに。「冬季限定」や「新商品」に埋もれがちなその存在に目を向けるとなんともいじらしい気持ちになる。「特別感」に頼ることなくいつもそこにある。その姿勢にはある種の矜持すら感じる。
さらに興味深いのはチョコレートが季節によって中身を変えているという事実だ。夏と冬ではチョコレートの成分が違うらしい。夏は溶けるリスクがあるため成分に工夫が必要だ。コーティングを厚くしたり、溶けにくい油脂を使ったりしている。一方で冬は溶ける心配がない分、本来の成分を使いより濃厚な味わいを楽しめる。
つまり、通年販売されているチョコレートは夏と冬で違う顔を見せているのだ。知らなかったとはいえこうして同じパッケージのチョコレートが季節ごとにさりげなく調整されていると知るとその奥ゆかしい努力に少し感動する。
冬季限定のチョコレートが「今しかない」という強烈なアピールをする一方で、通年販売のチョコレートはどの季節でも楽しめるように自らを変えながら黙々とその役割を果たしている。冬だけの特別感を味わえるのは、この「いつでもある安心感」があってこそだ。
今日も冬季限定のチョコレートを手に取りながら通年販売のチョコレートに目を向ける。「また次の季節に会おう」と心の中でつぶやく。その目の前でブラックもビターもミルクも何も言わない。ただどの季節にもその味わいを変えず確かな甘さで待っていてくれる。それがチョコレートの何よりの強さなのだと思う。