阪神タイガースの佐藤輝明選手がメジャー移籍を視野に入れたポスティング交渉のために契約更改を越年したというニュース。球団としては主力を手放したくないしファンとしては寂しい。その感情は痛いほどわかるが一人のビジネスパーソンとしてそしてアスリートとしての彼の立場をシミュレーションした時彼が行きたいと主張するのはあまりに正当で合理的だと言わざるを得ない。
最大の理由は残酷なまでの時間の価値。彼は現在26歳。今海を渡ればフィジカルの全盛期をメジャーという最高峰の舞台で迎えられる。
しかし球団の保有権が切れる海外FA権の取得を待っていれば彼は30歳を超えてしまう。 今のMLBのトレンドにおいて「20代中盤」と「30歳過ぎ」の野手では市場価値が天と地ほど違う。契約年数そして生涯賃金においてその差は数十億円下手をすればそれ以上になるだろう。
若いうちに行かせてやりたいというのは単なる人情論ではなく彼の人生設計における極めてシビアな経済的判断なのだ。
この問題を深掘りするとNPBの構造的な歪みに行き着く。職業選択の自由が保障されている現代日本においてドラフトで球団を選べずに入団しその後9年間(大卒でも7~8年)も海外移籍を制限される今のルールは法的に見ても「限りなく黒に近いグレー」ではないだろうか。
世界的な視点で見ればこれは労働者の権利を不当に拘束していると取られても仕方がない。選手会も独占禁止法違反の可能性を指摘しているが旧態依然とした組織の論理で若者の可能性が飼い殺しにされる現状には疑問しか残らない。
そして私が何より危機感を覚えるのはNPBという組織の「遅さ」と「閉鎖性」だ。いまだに外国人枠を設けて日本人選手を過剰に保護しているが本来であれば門戸を開放しアジア全体を巻き込んだ「MLBに対抗できる経済圏」を作るべきではないか。 隣の韓国リーグを見てほしい。 彼らはロボット審判をいち早く1軍に導入し試合のテンポアップやエンタメ性の向上に貪欲。意思決定のスピードにおいて12球団の合議制で何も決まらないNPBとは雲泥の差がある。ルールも環境も世界基準に近づけているKBOの方が外国人選手にとってメジャーへのステップアップとして魅力的に映る日も近いかもしれない。
実力はまだ日本が上だとあぐらをかいている間にシステムと魅力で追い抜かれる。
佐藤選手のポスティング問題は単なる一選手のわがままではない。変化を拒み既得権益と古い慣習にしがみつくNPBに対する強烈な警鐘。
いつまでも鎖国をしている場合ではない。選手が人生をかけて最高峰を目指すようにリーグそのものも世界を見据えて変わらなければ日本の野球はただの「ローカルな娯楽」になってしまうだろう。