本当に久しぶりに走った。 膝に違和感を覚えてからなんだかんだと理由をつけて避けていたけど、ついに重い腰を上げた。しかも太陽がまだ高い日中。腕がじんわりと日焼けした。まあそんなことはどうでもいい。
走っている途中ふとアスファルトの上に転がっているものに気づいた。 黒く、細く、硬く、完全に干からびてしまったミミズの亡骸だ。雨上がりの次の日なんかによく見る、あの光景。でも、今日の自分はなぜかその小さな命の痕跡にひどく心を揺さぶられた。
なんだかすごく悲しくなったんだ。 きっとこのミミズも、今日がこんなにアスファルトを熱くするほどの晴天になるなんて知る由もなかったんだろうな。あれ?いつもみたいに土の中に帰れるはずなのに地面が熱いぞ体が思うように動かないぞ…なんて、混乱しているうちに、なすすべもなく力尽きてしまったのかもしれない。それにしてもあんまりな最期じゃないか。
そしてそんな干からびたミミズを見ながら人生ってなんなんだろうななんて柄にもなく考えてしまった。 これも自然の淘汰というやつなんだろうか。だとしたらあまりに理不尽だ。このミミズが一体全体何をしたって言うんだ。ただいつも通り土から出てきていつも通り生きていただけじゃないか。ほんの少しタイミングや場所が悪かった。たったそれだけの不運であっけなく命が終わってしまう。
もし今日夜に走っていたらたぶんこのミミズの存在に気づきもしなかった。それどころか暗闇の中気づかずに踏みつけていたかもしれない。昼間の強い光の下を走っていたからこそこの小さな命の痕跡に気づき今こうして柄にもない哲学的な思考に耽っている。
ただそこに在って生きていただけなのに環境の急な変化やどうしようもない不運でいとも簡単に終わってしまう命。 それは小さなミミズもあるいは僕ら人間も本質的には大して変わらないのかもしれない。
そんなことをじりじりと焼けるアスファルトの熱を感じながらぼんやりと考えていた。 久しぶりのランニングはなんだか妙に哲学的な時間になった。